インプラント治療の報道を受けて 横浜市港南区上大岡のおいかわ歯科クリニック~横浜インプラントセンター上大岡~

こんばんは。横浜市港南区上大岡のおいかわ歯科クリニック~横浜インプラントセンター上大岡~老川です。
一時期から同様のご質問を受けることが増えたのでそのことについて書いてみたいと思います。
というより、大阪の佐藤先生より了承を得て引用させて頂きました。
2012年1月18日に放送されたNHK番組の「クローズアップ現代」にてインプラントのトラブルが急増しているとの報道がなされました。
すでに番組の再放送や映像の再配もされていますので、ご覧になられた方は多いかもしれません。
番組がその根拠としているのが独立法人・国民生活センターが平成23年12月22日に発表した「歯科インプラント治療に係る問題-身体的トラブルを中心に-」の報告です。
そこには「この5年間で歯科インプラント治療による相談が343 件寄せられており、増加傾向にある」としています。しかし、本当でしょうか?
資料によると2006年の相談件数は38件、ピークは2009年の82件ですから、確かに数字上は増えてはいます。
しかし、年々インプラント治療が増加し累積される中での件数の増加は、トラブルの「急増」といえるほどの変化でも割合でもありません。
確かに誤った診断や治療技術によって、インプラント治療の後遺症で苦しんでおられる患者さんがいらっしゃることについて、この治療に携わるものとしては大変胸が痛みます。
しかし、これは稀に起こり得る大変不幸なケースであり、だからといって、これを「トラブルの件数が急増している」と結びつけるのは誤った情報操作ですし、やはり現時点では「トラブルの急増」を証明する統計学的なデータは見当たらない、というのが私達が考える真相です。
国民生~1.JPG
図1.急増?? 
国民生活センター、「歯科インプラント治療に係る問題 - 身体的トラブルを中心に」より抜粋
また、番組では「インプラント治療は自由に設定できるため高い収益を得られるのです。」と報道しておりましたが、これも本当なのでしょうか?
例えば、当院に設置されているインプラント用のCTレントゲンの定価はなんと約2500万円もしますが、このように、安全にインプラント治療を行なうために歯科医院は相当な設備投資の負担を強いられることになります。もちろん、インプラントの機材を揃えるにも大変な費用がかりますし、個々の治療においても、インプラントには高額な材料費が必要で、また、技工料、インプラントの保証、治療技術の習得のための費用、さらに、診査資料の分析と治療計画の立案のためにかかる時間やコストなど、
歯科医院はその経営を逼迫するほどの経費を背負わなければなりません。
このように、一概にインプラント治療を安全に行うためには、誰しもが「高い収益」を得られるとは言えないのが実情なのです。
 
歯科用のCTレントゲン装置
私は断言できますが、私の周りのほとんどの歯医者さんはインプラント治療が従来の方法よりも優れている点が多いから患者さんに薦めているのであって、高い収益を見込んで行なっているわけではありません。
ある科学的な統計を紹介しますと、入れ歯は5年間で約75%しか長持ちしないとされる一方で1)、インプラントは10年間で95%は残るとも言われています2)。また、残存している歯についても、抜けた部分を入れ歯やブリッジで補う方法よりも、インプラント治療を行った場合の方がより長持ちするとも言われております3)。
こういったインプラント治療の優位性が科学的根拠として存在するために、当院はインプラント治療を患者さんに勧めるのであって、-たとえインプラント治療で「高い収益」が得られなかったとしても-、この先インプラント治療より優れた治療方法が開発されない限り、私は今後もインプラント治療に携わり続けると思います。
話を番組に戻しまして、さらにNHKが困るのは、番組の中では事実と違うことを意図的にNHKの思うシナリオに即して編集している点です。
例えば、番組の中では「相次ぐトラブルを受けて、インプラント治療に関わる5つの学会の幹部が一堂に会しようやく対策に乗り出しました。」と、その会議の模様を放送していましたが、実はこちら、インプラントのトラブルに関する会議ではなかったとのこと。
これは実際に会議に出席された教授の一人に伺った話なのですが、NHKの記者がどこからかその会議の開催を聞きつけ、撮影をしたそうです
そして、後日放送された番組では「インプラントのトラブル増をうけて」と勝手に会議の内容の趣旨を代えられ放映されていました・・・。
その他にも、番組では事実や科学的根拠に外れたことがたくさん紹介されており、
私はこんな恣意的な取材で番組を製作するNHKの受信料を、今後はもう支払いたくないなぁとさえ思いましたが、
とにかく、前述のとおり、インプラント治療のトラブルの割合は決して急増しているわけではないというのが本稿で私達のお伝えしたいことです。
なお、5学会の関係者の先生方はNHKに抗議し、謝罪や修正を求めましたが、NHKは全く応じてくれなかったとそうです。
一方的な報道に対して反論の余地もない私達としましては、
日々のインプラント治療に真摯に向き合い、そしてそれをこのような機会にコツコツと正しくに発信するしか、「インプラントの名誉回復」につながる道はどうやら無さそうですね。
出典1:
矢谷博文/ 日本補綴歯科学会雑誌, 2007:51(2)206-220 補綴装置失敗のリスクファクターに関する文献的レビュー
出典2:
荒川 光,窪木拓男 /日本人を対象としたインプラント治療の臨床成績に関する Systematic Review. 歯界展望2006. vol.108 No.1
出典3:
AquiliAquilino SA et al.
Ten-year survival rates of teeth adjacent to treated and untreated posterior bounded edentulous spaces. J Prosthet Dent. 2001 May;85(5):455-60.
なお、私自身はここに報告されたようなトラブルを自身のケースで経験したことはありません。それなりのインプラント施術数はあるつもりです。しっかりとした、診査、診断の後に適切な手技で行えばインプラント治療は歯を失ってお困りの方に対して大きな光明である治療法です。
一方的な報道に惑わされず、担当の歯科医師としっかりとご相談なさることが何より大切と思われます。
日本口腔インプラント学会専門医
ICOI Diplomate(国際インプラント学会指導医・役員)
歯科医師 老川秀紀


インプラントについて / 未分類

543